ボクシングの試合ノートの書き方

この記事の内容
3ラウンドを終えて判定を聞き、控室に戻るころには、「やりにくかった」「距離が合わなかった」という感想しか残っていないものです。ボクシングの試合ノートに書くのは、そのやりにくさの中身です。
書くことは、大きく分けて次の五つです。
- 構えとガード
- ジャブの使い方と得意な距離
- こちらが前に出たときに動く方向
- ラウンドごとの変化
- 自分が打たれた場面と、当てたパンチ
そこまで書けたら、次に同じ相手と当たるときに試すことを二つに絞ります。
アマチュアボクシングでは、ブロック予選や県大会、大学のリーグ戦で同じ相手と何度も当たります。ジムのスパーリング相手も、毎週ほぼ同じ顔ぶれでしょう。相手ごとにページを分けて残す考え方は、対戦相手帳をつける理由にまとめてあります。ボクシングなら、最初の一行は相手の構えです。
構えはオーソドックスかサウスポーか
相手の構えは、オーソドックス、サウスポー(右足が前)、試合の中で構えを変えるスイッチのどれかを書きます。スイッチする相手なら、いつ変えたかも大事です。打たれた直後なのか、ロープを背負ったときなのか、試合の終盤なのかを、あわせて書き留めておきましょう。
自分の構えと合わせると、組み合わせは二通りです。オーソドックス同士やサウスポー同士なら同じ構え、オーソドックスとサウスポーなら逆の構えになります。
逆の構えでは、前足どうし、前手どうしが同じ側で重なります。そこで見ておきたいのは、次の二つです。
- 前足 相手の前足の外側を取れていたか、逆に取られていたか
- 前手 差し合いで、どちらが上から押さえていたか
一試合見ただけで「サウスポーの選手」と決めつけず、その日の構えとして残しておきます。
マンチェスター大学の Thomas Richardson と R. Tucker Gilman は、2019年に Scientific Reports で左利きの格闘技選手の割合と成績を調べた研究を発表しました。対象は、プロボクサーと総合格闘家を合わせて1万3800人以上です。ボクサーについては、BoxRec に登録された構えを利き手の目安にしています。
左利きの選手の割合は、一般の人口と比べてはるかに高くなっていました。平均すると、成績も上回っています。男子ボクサーでは勝率と BoxRec の評価点の両方で差が見られ、女子ボクサーでは評価点は高かったものの、勝率には差がありませんでした。
ただし、対象はプロで、アマチュアではありません。データベースの記録を使った観察研究です。構えと利き手が一致しない選手がいることは、著者ら自身も認めています。これだけの人数の平均から、目の前のサウスポー一人の強さや戦い方までわかるわけではないのです。
それでも、やりにくさの多くは構えの組み合わせから生まれる、というのがこの記事の考えです。相手の構えとスイッチをページの一番上に書き、自分の戦績もサウスポー相手とオーソドックス相手に分けて残しておきましょう。
ガードの形とジャブの使い方を見る
ガードは、見たとおりに書きます。
- ハイガード 両手を高く上げる
- L字ガード(フィリーシェル) 前手を下げて、腹の前で構える
- ピーカブー 顔の前で両手を固める
- クロスアームガード 腕を交差させる
- ローガード 手を低く構える
名前が思い浮かばなければ、「両手を下げて、上体の動きで外す」のように形を書けば十分です。
防御の仕方も見分けておきましょう。
- パーリングで払う
- スリップやウィービングでかわす
- ブロッキングで受ける
- バックステップで下がる
- クリンチで止める
そのうえで、どのパンチのあとにガードが開いたかを書きます。
相手の得意な距離が遠距離・中間距離・近距離のどれなのかは、たいてい見当がつくはずです。ジャブの役割は相手によって違うので、何のためのジャブかを見分けて書きます。
- ポイントを取りにきている
- 距離を測っている
- フェイントとして見せているだけ
- 前手で軽く触ってくるだけ
- ダブルジャブで二つ続けて打ってくる
自分から先に手を出す相手か、こちらが出るのを待ってカウンターを狙う相手かも、添えておきましょう。
イングランド・エセックスの Combat Sports Performance に所属する Philip Davis らは、2018年に Journal of Strength and Conditioning Research に論文を発表しています。2013年のルール改正後の世界選手権を分析した研究で、60人の男子選手が戦った50試合の映像を調べたものです。
勝った選手には、三つの傾向がありました。
- 最初のラウンドで、ストレート、とくに前手のストレートを多く打っていた
- 3ラウンド目には、当てたパンチの総数が多かった
- 2ラウンド目と3ラウンド目では、空振りが少なかった
著者らの見方では、改正後のトップレベルのアマチュアボクシングは、遠距離からストレートを中心に戦う形に変わりました。防御の動きと、リングを動き回る場面も増えたといいます。改正前によく見られた近距離でのフックの打ち合いとは、対照的です。
ただし、観察研究で、対象も一つの世界選手権に出たトップレベルの男子だけです。戦い方の変化は著者らの解釈で、ジムや部活の選手で確かめたものではありません。今のルールが当時と同じとも限らないでしょう。
ノートに生かしたいのは、この三点です。
- 距離 試合がどの距離で進んだか
- ジャブと奥手のストレート 相手が何に使っていたか
- 手数と正確さ ラウンドごとに変わったか
何を打ってきて何が当たったか
相手の得意なパンチとコンビネーションは、細かく書くほど後で使えるメモになります。
- どこで終わるか ワンツーで終わるのか、フックまでつなげるのか
- どこを狙うか 顔か、ボディか
- 空振りのあと 何を打ってくるか
- 打たれたあと 何を返してくるか
- カウンター こちらのジャブや奥手のストレートに合わせてきたなら、どのパンチだったか
そして、自分のパンチのうち当たったものも残します。
「よく手を出していた」で終わらせないほうがいい理由は、研究からも読み取れます。エディス・コーワン大学とオーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)の Emily Dunn らは、2017年に PLOS ONE で2015年オーストラリア選手権の試合分析を発表しました。64kg級・69kg級・75kg級の3階級に出たトップレベルの男子26人を、映像で記録したものです。試合は3分3ラウンドで、10ポイントマストシステムで採点されていました。
勝った選手と負けた選手を比べた結果は、次のとおりです。
- 打ったパンチのうち当たった割合は、勝者のほうが高かった(勝者33%、敗者23%)
- 空を切ったパンチの割合は、勝者のほうが低かった(勝者17%、敗者27%)
- 打ったパンチの総数、防御の動き、打ち合っていた時間には、大きな差がなかった
パンチの正確さと動き方のスタイルを組み合わせると、85%の試合の勝敗を正しく分類できたそうです。
これも、一つの国内選手権に出たトップレベルの男子26人を観察した研究です。そのときの採点方式でジャッジがどう評価したかを示すもので、ほかの大会の採点にそのまま当てはまるとは限りません。
ノートでも、手数の多さより、何が当たって何が外れたかを書きましょう。
こちらが前に出たとき相手はどちらへ動くか
相手は自分から前に出てくるでしょうか。それとも、足を使って距離を取るでしょうか。まず書くのは、そこです。こちらが圧力をかけたときの反応は、四つに分けて見ます。
- まっすぐ下がる
- 横へ回る
- その場で打ち返してくる
- クリンチしてくる
回るなら、その向きを自分から見た左右で書いておきましょう。後で読み返したときに迷いません。
ロープやコーナーでは、相手がどこで詰まり、どうやって抜け出したかが大事です。ピボットで角度を変えたのか、クリンチで止めたのか、打ちながら出ていったのかまで書いておきます。紙にリングを描いて印をつけるなら、いちばん役に立つのはこの部分です。
ラウンドごとに何が変わったか
2ラウンド目、3ラウンド目に何が変わったかを書きます。見るところは、決まっています。
- 手数
- パンチの正確さ
- ガードの高さ
- クリンチの多さ
- 足の使い方
インターバルでコーチに何を言われたかも、覚えていれば一緒に書いておきたいところです。
先ほどの Dunn らの研究でも、1ラウンド目から2ラウンド目にかけて、クリンチしている時間とガードを下げている時間が増え、跳ねるようなステップは減っていました。著者らはこれをペース配分と見ています。勝敗を分けた要素ではなかったそうです。
ここで書くのは、動作です。「疲れていた」「嫌がっていた」は相手の体や気持ちについての推測で、次の試合で確かめようがありません。「打ち合いのあと両手が下がった」「近づくとクリンチしてきた」と書いておけば、同じことが起きるかどうかを次の試合で見られるのです。
自分が打たれた場面も書く
相手のことばかりで、自分のことが一行もないページ。次の試合の前に読み返しても、何を直せばいいのかが見えてきません。
自分については、次の三つを書きます。
- 打たれた場面 どこで、何をもらったか
- 繰り返した動き 同じ動きを何度もしていなかったか
- 当てたパンチ 一度でも当てたのはどれか
最初の印象と合わない場面こそ、残しておきましょう。何もできなかったと感じた試合でも、こちらのパンチが一つでも当たっていれば、それが次の手がかりになります。
記憶か動画かを書き分ける
それぞれのメモには、記憶で書いたのか、コーチの話か、仲間が撮った動画で確かめたのか、出どころがわかるようにしておきます。覚えていないところは、空欄のままでかまいません。回数を数えていないなら数字を作らず、「何度か」と書いておきます。
同じ動きが2試合続いても、まだ仮説です。合わない場面があれば、並べて書いておきます。動画が残っていれば、見返して確かめましょう。
試合の記憶が薄れていく速さを扱った記事もありますが、何時間を過ぎたら忘れるという線は引けません。記憶が残っているうちに書き、あやふやな部分には「たぶん」と添えておけば十分です。
結果は、発表されたとおりに書きます。判定なら、勝ち負けと、ジャッジの採点が割れたかどうかです。レフェリーが止めたなら「RSC」とだけ書き、自分でラウンドごとの採点をつけ直す必要はありません。
ルールや採点の基準は変わっていくものです。条文を書き写すより、その結果に至った場面を残しておくほうが後で役に立ちます。
5つの欄にまとめる
この記事で紹介する研究のうち、地方レベルの選手まで含んでいるのは一つだけです。チェスター大学の Edward Thomson と Kevin Lamb が2016年に International Journal of Performance Analysis in Sport で発表したイングランドのアマチュアボクサーの試合分析です。11階級の92人を、地方レベルと全国レベルの二つに分けて記録しています。
わかったことは、次のとおりです。
- 1分あたり、およそ25発のパンチと10回の防御動作があった
- レベルの高い選手ほど、攻撃と防御の動作が多かった
- 勝った試合では攻撃の頻度が高く、防御の頻度は低い傾向があった
- 階級による違いは、一定していなかった
観察研究なので、関連を示したものであって、原因を示したものではありません。どんなスタイルの相手にどう勝つかも扱っていません。著者らは今後の研究で考えるべきこととして、相手の実力や「スタイル」を挙げています。研究でまだ測られていないその部分こそ、相手ごとのページに書き込む内容なのです。
ここで紹介した4本の論文のどれも、ノートを書くことでボクシングの成績が上がるかどうかは調べていません。下の5つの欄はこの記事のために用意した書式で、試すことを二つに絞るという進め方も、研究から導いたものではありません。
- 試合の情報 大会名と回戦(またはスパーリング)、相手の名前、階級、相手と自分の構え、発表された結果、何をもとに書いたか
- 構え・ガード・距離 構えとスイッチ、ガードの形、得意な距離、ジャブの使い方
- パンチとリングでの動き 得意なパンチとコンビネーション、カウンター、顔かボディか、こちらが圧力をかけたときに動く方向、ロープ・コーナー・クリンチ、ラウンドごとの変化
- 自分のボクシング 打たれた場面、繰り返した動き、当てたパンチ
- 次に試すこと 変えることを二つと、それぞれをやめる条件
わからない欄は無理に埋めず、空欄か「不明」のままにしておきます。紙に描いたリングに印をつけるときも、アプリの図にピンを置くときも、その位置で起きたことを短く書き添えましょう。「ここで左ストレートをもらった」「ここからロープ沿いに回って逃げられた」といった一言で足ります。印だけでは、あとで読み返しても場面が浮かびません。
記入例:ロープ沿いに回られた準決勝
ここからは、書き方を見せるために作った架空の例です。実在の選手や試合、アプリの記録、研究データとは関係ありません。
試合の情報 全日本選手権のブロック予選、準決勝。3ラウンド。相手は柴崎さん。以前、他のジムとの合同練習で一度スパーリングをしている。相手はサウスポー、こちらはオーソドックスで、構えは逆。結果は判定負けで、ジャッジの採点は割れていた。記憶と、インターバルでのコーチの話、2ラウンド目と3ラウンド目を同じジムの仲間がスマホで撮ってくれた動画から。パンチの数は数えていない。
構え・ガード・距離 ジャブを二つ続けて距離を測ってくる。こちらがまっすぐ踏み込むと、そこに左ストレートを合わせられた。
パンチとリングでの動き こちらが前に出ると、ロープ沿いにこちらから見て左へ回って出ていく。毎回同じ方向で、そのたびに相手の前足がこちらの前足の外側に来ていた。3ラウンド目は、こちらが近づくたびにクリンチしてきた。打ち合いのあとは両手が下がっていた。
自分のボクシング まっすぐ追いかけ続けて、左ストレートにそのまま入っていった。前足も相手の前足の内側に置いたままだった。2ラウンド目にボディジャブが2回当たった。当たらない相手ではない。
次の対戦で試すことは、二つに絞りました。
- まっすぐ追いかけるのをやめ、打つ前に、こちらから見て左へ一歩出て、その側の逃げ道を先にふさぐ。前足は相手の前足の外側を取りにいく。 相手が反対側へ出ていくようになったら、この作戦はやめます。左へ一歩出るところで左ストレートをもらい続ける場合も同じです。
- ボディジャブは続け、打ち合いのあとに相手の両手が下がったら、そこから顔へつなぐ。 次の試合で両手が下がらない場合や、こちらのジャブの上から左ストレートをかぶせられ続ける場合は、やめます。
この二つは次の対戦の前にコーチと一緒に読み、ミット打ちと、コーチが見ている前でのスパーリングで練習しておきます。試合が終わったら、試した結果を書き足しましょう。覚えているのは数回の場面だけなので、次も同じ展開になる見込みがどのくらいあるかまでは言えません。あくまで、次の試合で確かめる手がかりです。
次の試合とジムで確かめること
同じ相手と当たったら、1ラウンド目の早いうちに、前回のページに書いたことが今回も起きているかを確かめます。前回の読みがそのまま使えないこともあります。
- 相手が構えや階級、戦い方を変えていた
- こちらの動きが練習どおりにできていなかった
そのときは、その試合で見たことをもとにページを書き直しましょう。
相手ごとのページがいくつかそろったら、同じ打たれ方が相手を問わず出ていないかを見比べます。見つかったらコーチに見せ、ミット打ちやスパーリングで確かめる課題を一つに絞ります。
「サウスポーの相手がこちらから見て左へ回ったとき、一歩で先回りできるか」のような具体的な問いにしておくのがコツです。そうすれば、コーチ立ち会いのスパーリングで、練習相手にサウスポーの構えや決まった逃げ方をまねしてもらえます。振り返りと競技力の関係を調べた研究を紹介した記事でも触れたとおり、ノートを書けば強くなると言い切れる根拠はありません。
OpponentBook は、こうした記録を相手ごとのページにまとめる対戦相手帳です。ボクシングの競技図には、ロープと赤コーナー・青コーナー・二つのニュートラルコーナーを描いたリングを使っています。好きな場所にピンを置いて「うまくいった」「うまくいかなかった」「危険」「傾向」のどれかを選び、メモを添えられます。線を描き込むのではなく、ピンで場所を示す仕組みです。相手のプロフィールには、構え(オーソドックス・サウスポー・スイッチ)、ガード、好む距離(遠距離・中間距離・近距離)、リーチ、階級を任意で残せます。ノートはまるごと無料です。
同期した記録は、自分で接続したストレージに保存されます。OpponentBook のアカウント用データベースには、ノートのコピーを置いていません。AI による処理を自分で頼んだときは、必要な内容が OpponentBook のサーバーを経由して外部の AI 事業者に送られます。任意のエンドツーエンド暗号化(E2EE)をオンにすれば、暗号化された記録はストレージ事業者にも読めません。ただし、写真・動画と、ファイル名などストレージ事業者から見える情報は、この保護の対象外です。相手の癖まで書き込むノートなので、保存先と AI 処理、暗号化の仕組みも確認しておいてください。
最近の試合かスパーリングを一つ選び、相手がジャブを何に使っていたか、こちらが前に出たときにどちらへ動いたかを、今夜のうちに書き出してみてください。その下に試すことを二つ並べておけば、次にその相手と当たる日の準備はもう始まっています。


