テニスの対戦相手分析——シングルスの試合ノートの書き方と記入例

この記事の内容
クラブのリーグ戦や市民大会では、以前負けた相手とまた当たることがあります。そのとき手元に残っているのは、たいてい「サーブが良かった」「バックは打ってこなかった」といった印象だけです。テニスのシングルスで対戦相手を分析するなら、その印象ではなく、サーブとリターンの一往復から書き始めます。どちらのサイドから、どのコースに来て、何で返し、そのあとどうなったかまでを一組で書きます。そこに自分の失点の理由と次に試すことを添えておけば、再戦の前に読み返せる記録になります。
相手ごとにページを分けて記録をためていく考え方そのものは、対戦相手帳を始める理由で扱っています。この記事ではテニスのシングルスに絞り、何をどの順番で書くかを具体的にします。
ここで紹介する5つの欄は、書きやすさを優先して組んだ独自の書式です。比較試験で効果を確かめたものではなく、途中で引く3本の論文も、ノートをつければテニスの勝率が上がると示した研究ではありません。観察した事実と自分の解釈を別々に残すための根拠として読んでいます。
「サーブが良かった」の中身を書く
サーブは毎ポイントの最初にあるショットなのに、記憶には「良かった」「入らなかった」程度にしか残らないものです。テニス・オーストラリア(Tennis Australia)の Game Insight Group に所属する Machar Reid らが Journal of Sports Sciences に発表した2016年の研究では、2012〜2014年の全豪オープン(ハードコート)で、男子102人・女子95人の選手とボールのトラッキングデータを分析しています。男女の差が最も大きかったのはサーブの指標で、速度、エースの本数、リターンが返らなかったサーブ、サービスポイントの獲得率に違いがありました。リターンを打った位置と打点の高さにも差が見られています。
一つの大会での男女比較であって、相手を分析する手順を示した研究ではなく、ノートについては何も扱っていません。それでも、サーブを一つの印象ではなく、いくつかの要素に分けて見ている点は、クラブの記録でもまねできます。ファーストかセカンドか、デュースサイドかアドサイドか、ワイド・センター・ボディのどこに来たか、こちらのリターンがどうなったかまで書いて、初めて次の試合で使える記録になります。
裏返しも同じです。自分のどのサーブを相手が叩きにきて、どのサーブをブロックで返してきたかは、次にサーブのコースを選ぶときの手がかりになります。
条件を書かなければ傾向を読み違える
同じ相手でも、コートや天候が変わればサーブとリターンのやり取りは変わります。マドリード工科大学の Yixiong Cui らが PLOS ONE に発表した2018年の研究は、ポルトガルのトラス・オス・モンテス・イ・アルト・ドウロ大学の研究者も加わったチームによるもので、2014〜2017年の四大大会の女子シングルス1,369試合の公式スタッツを分析しています。サーブとリターンに関する指標は大会ごとに異なり、全豪オープンと全米オープンではサービスウィナー、ダブルフォールト、リターンウィナー、リターンでのアンフォーストエラーがそろって多く、ウィンブルドンではサーブが強く、全仏オープンではブレークのチャンスが多いという結果でした。そのうえで、ほぼすべての指標が、ランキングをもとに選手間の実力差を表す指標(relative quality)と関連していました。
対象はプロの女子選手で、クラブの試合を調べたものでも、ノートをつけることを調べたものでもありません。ただ、サーフェスや相手との実力差でサーブの指標が動くのなら、クラブの記録でも、サーフェス、屋外か室内か、風や日差し、相手のレベルを書いておかなければ、傾向を読み違えます。「セカンドはバック側に来る」という一行は、あのオムニコートで、あの風の日に、あのレベルの相手が打ってきた、という条件つきの観察として残します。
もっと細かい集計表を作りたいなら、Scott Over と Peter O’Donoghue が国際テニス連盟(ITF)の ITF Coaching & Sport Science Review に寄せた2010年の記事が参考になります。サーブの方向をファーストとセカンド、デュースサイドとアドサイドに分けて数えること、長くなったポイントでどのくらいネットに出るかを見ること、そしてそれらの選択が相手、スコア、大会によって変わることを扱っています。二人は、選手が「平均的な」相手と、「平均的な」サーフェスで、「平均的な」ボールを使って戦うことはないと書いています。連盟の指導者向けレビューであって、新しい実験研究ではありません。この記事の5つの欄も ITF の表を写したものではなく、試合のあとに記憶から書けるように組んだ独自のものです。
試合のあとに埋める5つの欄
毎試合すべてを埋める必要はありません。次の対戦前に読んで場面が浮かぶ程度で十分で、同じ相手のページに日付をつけて足していきます。
- 相手と試合の条件。 相手の名前と日付、試合形式、サーフェス、屋外か室内か、風や日差し、結果を書きます。利き手と、バックハンドが片手か両手かも欠かせません。個別の観察には、そのときのスコア(30–30、ブレークポイント、タイブレークなど)を添えます。記憶から書いたのか、動画を見たのか、観戦していた人から聞いたのかも残しておくと、あとで信頼度を分けて読めます。
- サーブとリターン。 相手のファーストサーブとセカンドサーブをデュースサイドとアドサイドに分け、どこに来て、こちらのリターンで何が起きたかを書きます。逆に、自分のどのサーブを相手が攻めてきて、どれをブロックで返してきたかも残します。
- ラリーの展開。 リターンのあと、ポイントがどう進んだかです。クロスのラリーが続いたのか、相手はいつストレートに展開したのか、浅いボールに何をしたのか、ネットに出てきたのか、こちらが前に出たときに何を打ってきたのかを書きます。フォア側・バック側は、図を眺める自分の左右ではなく、相手から見た側で書きます。
- 失点につながった自分のプレー。 球種やコースの選択、その球の質、フットワーク、タイミングを分けて見ます。ブレークポイントでパスをミスしたからといって、相手を抜けないという証拠にはなりません。
- 次に試すことと、やめる条件。 調整は一つか二つに絞ります。あわせて、どんな場面を見たらその調整を取り下げるかも決めておきます。相手が変わっていれば、前回の読みは前回のものです。
記入例——架空の一戦
以下は書き方を示すために作った架空の記録です。実在の選手の試合でも、アプリ内の記録でも、研究のデータでもありません。
相手と条件 相手B、右利き、両手バックハンド。9月上旬、クラブ内シングルスリーグの8ゲームプロセット(8–8でタイブレーク)。屋外のオムニコート(砂入り人工芝)、風が強く、南側のエンドは向かい風。8–9で敗戦。その晩に記憶から記入。後半はクラブの仲間が観戦していたので、その話も入れている。
サーブとリターン デュースサイドのファーストは、覚えている限りフォア側のワイドが多かった。回数は数えていない。セカンドは遅めのキックサーブでバック側へ。セカンドをスライスでセンターに深く返した場面では、そのまま互角のラリーになった。クロスへ強く打ちにいったリターンは、タイブレークで2本ミス。アドサイドのサーブは記憶が曖昧なので空欄。自分のサーブでは、バック側へのセカンドを叩かれた。ボディへのファーストはブロックで返ってきた印象だが、回数は不明。
ラリーの展開 バッククロスのラリーでは、相手が早めにストレートに展開してきた。覚えている範囲で2本はウィナー、1本はサイドアウト。相手がネットに出たのは、こちらのボールが相手のフォア側に浅くなったときだけ。こちらが前に出たときは、パスで抜かれたのが1本、浅いロブが1本。
失点につながった自分のプレー 30–30とデュースで、セカンドサーブのリターンを打ち急いだ。向かい風のエンドでダブルフォールト2本。スライスのアプローチが浮いて、パスされた。
次に試すこと・やめる条件 セカンドサーブのリターンはセンターに深く。向かい風のエンドでは、サーブに回転をかけてネットの上を高く通す。相手のセカンドサーブが変わっていたり、コートやボールが違ったりしたら、この読みは見直す。
「2本」「1本」という数は、次の試合の確率を見積もるには少なすぎます。ここで残したいのは、観察した範囲と、それに合わなかった例です。「早めにストレートに展開してくる」という見立ての横に、サイドアウトした1本も置いておきます。数えていないものに、あとから数字を当てはめてはいけません。「多かった印象。回数は不明」のままで、記録としては十分です。思い出せない欄は空けておきます。
コート図に印をつけるなら
紙にシングルスコートを描いて印をつける場合は、向きを決めてから始めます。手前を自分、奥を相手に固定し、フォア側・バック側は相手の利き手を基準にします。
印だけでは、そこにサーブが来たのか、相手がそこから打ったのか、こちらのボールがそこに落ちたのかも区別できません。「デュースサイド・セカンド・バック側」「タイブレーク・こちらのクロスリターン→相手のミス」のように、球種と状況とラベルを添えます。この三つがそろうと、あとから図を見てポイントをたどれます。そろっていない印は、しばらくすると何の印だったか自分でもわからなくなります。
再戦の前に読み、あとに書き足す
同じ相手と当たるとわかったら、ウォームアップの前にページを開きます。全部を頭に入れようとせず、プレー中に思い出せる短い言葉を二つだけ選びます。上の例なら「セカンドはセンターに深く」「向かい風は回転で入れる」くらいです。二つという数は覚えておける範囲の目安であって、研究で決まった量ではありません。
最初の数ゲームは、前回と同じことが起きているかを確かめる時間にします。相手の調子も、自分の調子も、サーフェスもボールも風も、前回とは違います。セカンドサーブがフォア側に来始めたら、バック側で待つ理由はもうありません。予想が外れた場面こそ、次に書き直す材料になります。
試合が終わったら、試したことの結果を書き足します。うまくいった場面だけでなく、失敗した場面、そもそも試す機会がなかった場面も残します。書くのはポイントをまだ頭の中で再生できるうちが望ましく、動画があれば、方針を左右する場面だけでも見直します。競技での記憶の頼りなさは別の記事で扱っていますが、テニスのラリーを何時間で忘れると一律に言えるわけではありません。覚えているうちに書き、曖昧なところは曖昧だと書いておきます。
相手が変わっても繰り返す失点を練習に持ち込む
何人分かのページがたまったら、それぞれの「失点につながった自分のプレー」を横に並べて読みます。相手が変わってもセカンドサーブのリターンを打ち急いでいるなら、その前の状況を比べます。風が強かったのか、疲れていたのか、30–30のような場面ばかりなのか。同じ結果でも条件が違えば、練習で確かめることは違います。ノートだけで原因を診断できるわけではないので、「セカンドのリターンで、ブレークポイントになると打ち急ぐ。ラリーになる前に決めにいっているのか、構えが遅いのか」といった問いを一つ用意して、コーチや練習相手に持っていきます。
自分のプレーを振り返る習慣と競技レベルの関係については、フローニンゲン大学の Tynke T. Toering らが Journal of Sports Sciences に発表した2009年の研究があります。11〜17歳の男子サッカー選手を対象に、エリート159人と非エリート285人の質問紙への回答を比べたところ、振り返りの自己評価が高い選手はエリート群に多いという関連が見られました。観察研究であって因果を確かめた試験ではなく、競技もテニスではありません。書くことで上達したという証拠にはならない点は、振り返りとパフォーマンスの研究でも整理しています。
ここまでの書式は紙でも使えます。OpponentBook で書く場合は、相手ごとの1ページが対戦相手帳になり、テニスのシングルスコートの競技図に置いたピンにメモを添えられます。ノートはまるごと無料です。同期した記録は自分のクラウドストレージに置かれ、OpponentBook のアカウント用データベースにノートの写しは残りません。AI の機能を実行したときは、処理に必要な内容が OpponentBook のサーバーを経由して外部の AI 事業者に送られます。詳しくは、メモの保存先と AI 処理の説明で確認できます。エンドツーエンド暗号化(E2EE)を任意でオンにすると、暗号化されたメモはストレージ事業者からも読めなくなります。写真・動画と、ファイル名などストレージ事業者に見える情報は、この暗号化の対象外です。
次にその相手と当たる日はまだ決まっていなくても、直近のシングルスを一試合思い出すことはできます。間違いなく覚えているプレーを一つ、はっきりしないまま残っていることを一つ、次の対戦で試すことを一つ書いておけば、それがその相手のページの最初の記録になります。


