卓球の対戦相手分析はサーブから始める — 同じ相手に勝つためのノートの書き方

卓球は再戦の競技です。リーグ戦と市民大会をワンシーズン回れば、対戦表から初めて見る名前はどんどん減っていきます。会場が変わっても当たる顔ぶれは毎回ほぼ同じで、春に競り負けたペンの選手が、秋のオープン大会でまた同じブロックに入っている。そんなことが当たり前に起こります。
トップレベルに目を移すと、対戦相手の分析はすでにひとつの研究分野です。ミュンヘン工科大学の Michael Fuchs(ミヒャエル・フックス)らのチームは、卓球の試合分析手法を整理したレビューを Journal of Sports Sciences(2018年)に発表しています。パフォーマンス指標の設計からフットワークの分析まで、手法の一覧だけで一本の論文になる世界です。もちろん、市民大会に出る選手にアナリストはつきません。それでも、かなり近いものなら手元にあります。試合をいちばん近くで見ていた自分自身と、その日のうちに書けるメモです。
やることの骨格は、個人競技の選手に対戦相手ノートを勧める理由で書いたものと同じです。相手ごとに1ページ。ただし卓球には卓球の書きどころがあって、その筆頭がサーブです。
まずサーブ、次に自分のレシーブ
サーブは2本ごとに交代でやってきます。つまりこの競技は、2点に1回、完全に自分の裁量で組み立てられる一手を片方の選手に渡している——ここまで頻繁に自由な戦術判断が回ってくるラケット競技は、他にありません。相手について1つだけ記録するなら、サーブを選んでください。あわせて、自分のレシーブがどうなったかも必ず書きます。
相手のサーブ。 種類・回転・長さ・コースを、よく使う順に。競った場面だけ出てくるサーブがあれば、それも。「基本はバック側から横下回転の短いサーブをフォア前へ。リードすると、ミドルへの速いロングを混ぜてくる」
効いたレシーブと、効かなかったレシーブ。 「レシーブを丁寧に」ではなく、次の試合でそのまま実行できる形で。「短いサーブはバック深くへのツッツキが安定——相手はそこから先に打ってこない。フリックで払いにいって4本失点。次はやらない」
こういう正直な2行を試合の当日に書いておくと、次の対戦では動画を見返すよりも役に立ちます。記憶研究では試合の細部は数日で崩れはじめることが繰り返し確認されていて、「取れなかったサーブの回転」は、まさに最初に消える種類のディテールだからです。
変わらないことは、ページの頭に
相手の戦型まわりの、試合の途中で変わらない情報は、ページの頭に短くまとめておきます。ゲーム中に思い出そうとしなくて済むようにするための欄です。
- 利き手とグリップ。 シェークかペンか。ペンなら裏面打法を使うかどうか。レシーブでチキータを持っているか。
- ラバー構成。 この競技で定番の失敗が、「バックが粒高だったのを忘れていた」です。アンチも含めて、構成は必ず控えておきます。「バック粒高、前陣ブロック主体。強めのドライブはナックルで浮いて返ってくる」
- 距離と先手。 台上・前陣で勝負するのか、中陣に下がって打ち合うのか、後陣からロビングまで使うのか。長いボールになったとき、先に仕掛けるのはどちらか。
得点には「場所」がある
卓球のメモには、文章で書くより描いたほうが早い情報があります。得点は台の上で偏るからです。相手のサーブは、フォアとバックの境目——いわゆるミドル——に集まります。どちらのハンドで取るか一瞬迷わされる、いちばん安全に攻められるコースだからです。逆にこちらの決定打は、相手のフォアサイドを大きく切る角度に偏ります。足が止まった試合では、いつも同じコーナーを抜かれています。卓球台の図に印をつけておけば、説明の一段落ぶんが一目で伝わりますし、3、4回の対戦分がたまれば、印の集まりはそのままふたりの相性の地図になります。
(OpponentBook では、実物どおりに描き起こした卓球台の図の上に、効いた・効かなかった・危険のピンを置けます。紙で始めるなら、印刷した図と鉛筆がその最初の形です。)
書くのは当日、読むのは前夜
- 遅くとも、当日の夜までに書く。 団体戦の日はシングルスだけで2、3試合あります。試合の合間には断片をひとつかふたつ、帰り道で3つの問いに答えます。効いたのは何か。効かなかったのは何か。次に当たるとき、何を覚えていたいか。
- 次の対戦がわかっている前夜は、書かずに読む。 リーグの対戦カードも大会のブロック分けも、たいていは前もってわかります。当たりそうな名前のページを開いて10分。ノートを書きためる意味は、ほとんどこの10分に集約されています。
- 読んだ日は、読んだと書き残しておく。 シーズンを通して見れば、ページを読んでから臨んだ試合と、何も見ずに入った試合の成績を比べられます。差が出ても出なくても、それがわかること自体が収穫です。
同じノートが、自分の弱点表になる
ワンシーズンも続けると、このノートは相手の資料であると同時に、自分の資料になります。10人分のページから失点のメモだけを拾って読み返してみてください。競った場面で必ず来るフォアへのロングサーブ。何度でも刺さるミドル攻め。最後まで対応が間に合わなかった3球目攻撃。相手が違うのに同じ一文が繰り返し出てくるなら、それはもう相手の強みの記録ではなく、自分の弱点の一覧です。
そして、よく当たる相手はこの一覧を、とっくに頭の中に持っています。あの人が自分にあのサーブばかり出してくるのは、偶然ではありません。相手より正確な版を自分で持つこと——弱点の一覧は、そこから短くなりはじめます。
OpponentBook は、このノートをきちんとした形で続けるために作ったアプリです。相手ごとのページの上段に利き手・ラバー構成とサーブのメモ、本物の卓球台の図に置くピン、動画クリップの添付、デバイス間の同期。保存先は自分のクラウドストレージで、中身は私たちには仕組みの上で一語も読めません。オプションのエンドツーエンド暗号化(E2EE)を有効にすれば、ストレージ事業者にも読めなくなります。ノートはまるごと、ずっと無料です。
紙からでも、今夜始められます。最後に自分を負かした相手のページを1枚。あのサーブの種類と、次に試すレシーブをひとつ。次の対戦は、たぶん思っているより早く来ます。


